地域学校協働活動推進に係る事例インタビュー
日之影町
~子どもたちを「天使のようだ」と見守る大人たち、
「日之影っていいね」と語る"元気印"の子どもたち~
取材日:令和元年8月19日(月)
聞き手:生涯学習課 鈴木、中野 北部教育事務所 甲斐
回 答:日之影町教育委員会 教育次長 工藤 富士さん
主 査 押方 里美さん
指導主事 川添 卓哉さん
日之影町立日之影小学校 教 頭 大島 昭二さん
文 責:生涯学習課
地域と学校の連携・協働について、日之影町ではどんな方針で取り組んでいますか。
(工藤次長)
地域と学校の連携・協働は、大変重要なこととして捉えています。「人が町をつくる、町が人をつくる」という視点から町の総合計画、教育基本方針を策定しており、本年度の教育施策では5つの柱を立て、その一番目に「地域との連携による教育活動の推進」を掲げています。放課後子供教室も含め、学校独自の地域性を踏まえた連携が行われており、特に日之影小学校ではネットワーク会という歴史と伝統のある組織が継続しています。今でも厚い信頼関係で学校と地域が結ばれており、それが発展して現在各学校で行われている教育懇話会にもつながっており、各学校の実情を踏まえた取組が行われているところです。
(川添指導主事)
本町では、古くから学校と地域の連携が行われています。中でも組織としてできているのが日之影小の地域ネットワーク会と高巣野小の地域連携推進協議会です。学校と地域のとても良好な関係ができています。また、町内の全小学校で地域の方々の御協力によるスクールガードの取組もあります。
(工藤次長)
三世代世帯も多く、地域の方々が学校と関わりやすい環境が伝統的にあり、中山間地域の小規模校としての特色が今でも残っています。それを施策として強引に進めてしまうと続かないというところもあったのではないでしょうか。先代からの「学校が地域の拠点である」という高い意識が、今でも受け継がれているのだと思っています。
地域と学校が連携・協働している活動としてはどのようなものがあるでしょうか。
(大島教頭)
地域なくしては本校の教育活動は充実しないと言えるほど、地域の皆さんの熱を感じています。具体的には、テレビでも取り上げられた花いっぱい活動では、苗植えや地域に配付でもサポートをしていただいています。伝統芸能の継承では、古園棒術、追川団七踊り、神楽を指導していただき、町の渓谷祭りや学校の運動会、学習発表会等で披露しています。また、読み聞かせ、米づくり体験、地域の老人会と交流する七夕交流、交流給食なども行っています。プール掃除なども消防団の方に手伝っていただいており、児童数が少ないのでとても助かっています。
日之影小ネットワーク会の中には、「伝統芸能班」と「健全育成班」という2つの班があり、健全育成班には読み聞かせのほか、登下校の見守りや放課後子ども教室担当の方との連携が含まれています。
ネットワーク会は約20年ほど続いているのではないかと思います。学社連携の指定研究をきっかけに充実したと聞いています。初代の会長が今でも関わってくださっています。
現在は27名の方に入っていただいていて、メンバーの入れ替わりもほとんどありません。高齢化も進んできているので、新しい取組の推進よりも現在ある取組の継続をしていこうという話をしているところです。
(工藤次長) ネットワーク会の会報は今月発行のもので200号になります。この継続は見事なものだと思います。
会長の存在がとても大きいですね。
(川添指導主事)
教育懇話会の場で、学校への要望等を聞くこともあるのですが、細かいことは言わず、地域も学校も一生懸命されているので何も言うことはないとおっしゃる方です。
(大島教頭)
登下校の見守りをされているときに、会長が「私には子どもたちの背中に羽が生えているのが見えるようだ。天使のようだ。」とおっしゃったのが印象的です。「子どもたちの挨拶を聞くと元気になる。今のまま育ってほしい。」ともおっしゃっていました。学校と地域の双方によさがあると言えるのではないでしょうか。
教育懇話会は日之影町ならではの取組だと思いますが、詳しく教えてください。
(工藤次長)
町内全校(5校)に設置しており、年に2回会議を開いています。学校と地域が課題や情報を共有し、地域と一体となった学校運営の一助にしようとの考えで設置しているものです。メンバーは、校長、教頭、PTA会長・副会長、地域の代表者5名以内で、教育課事務局、教育長、教育委員も入ります。本年度から、学校評価にも参画いただいており、貴重な意見をたくさんいただいています。施策に反映できる意見もありますし、町全体として共有すべき情報もあります。どの学校でも共通して、子どもたちが地域の元気印になっているということは間違いなく言えることです。子どもの頃に大人から伝統を引き継いで、その人たちが今大人になって中心になっているという歴史があります。
この教育懇話会を強化すれば、学校区ごとの協働本部への移行は可能だと思っています。
教育懇話会では、具体的にどんな意見が出されるのでしょうか。
(工藤次長)
「朝、子どもたちが歌を歌って登校する姿から元気をもらっている」という意見が印象的でした。他には、通学路での事件・事故の予防として警察との連携を強化してほしい、ホームページを使って学校の特色を発信してほしいといった要望もあります。また、中学生の職場体験に農業体験を入れてほしいという意見、町にできた自治体出資型のアグリファームの活用についての要望などもありました。
(川添指導主事)
特に中学校は、地方創生の視点からは人材育成の窓口になるので、「こういうことをやれるのではないか」という提案としての意見もあります。アグリファームについても、町の基幹産業である農業の人材育成を見据えての意見として出されたのだと思います。
地域と学校が連携・協働する効果として、どのようなことを感じていますか。
(川添指導主事)
まず、町内どの学校区でも、学校がしたいこと、地域がしたいことをスムーズに一緒になって取り組めるということです。どこに連絡すればいいのか、打合せをいつすればいいのか、といった心配がなく、どの校区も体制ができていると思います。町での集合学習で地域について知る学習をしたときのことですが、体験活動の前に地域の方の話を聞いた子どもが「日之影っていいね」と言ったことが印象的でした。地域のことを熱く語る大人の姿を子どもが誇りに思っている、子どもたちが日之影のよさを感じているということではないでしょうか。
(工藤次長)
大人にとっても、子どもと関わることで自分を見つめ直す時間になっているようです。子どもが相手となると準備をして工夫しながら話をする必要がありますから、引き受けてくれる人たちは自覚と責任をもって子どもたちに話をしてくれています。それが人材育成にもつながっているのではないでしょうか。
(川添指導主事)
大人が地域への思いを伝えられる場というのは実はなかなかなく、その場が学校になっています。実際に話をしてみるとうまく伝わらなかったり、どう伝えたら日之影のことを分かってもらえるかを考えたり、それが大人の自己研鑽にもなっているようです。
教育委員会内の社会教育・学校教育担当の連携、部局の関係課との連携の状況はいかがでしょうか。
(工藤次長)
教育委員会内はもちろんですが、町長部局も地方創生・キャリア教育・人材育成という柱で学校と連携したいとの考えもあり、関係課とも連携はできています。総合教育会議が擦り合わせをするとても有効な場になっています。まちづくりビジョンと教育行政の一体的な推進を掲げているので、どこの課が主導してということではなく、各課が手を取り合って進めていかなければならないと考えています。学校との風通しをよくすることにも気を付けています。
放課後子供教室についてお聞きします。長期休業中のプログラムがまさに協働活動だと思うのですが、このうち平日に取り組んでいることはあるのでしょうか。
(押方主査)
日頃は、スポーツ少年団に入っている子もいるし、スクールバス利用の子もいるので、なかなか全員が揃う時間が短いので難しいです。その分を長期休業の子供教室で様々な体験活動に取り組んでいます。
長期休業中のプログラムは、どなたが計画しているのでしょうか。
(押方主査)
ほぼコーディネーターである私が計画しています。例えば「エコ教室」や「認知症サポーター養成教室」などは、役場の各課から子どもに話をしたいという希望を受けて計画したものです。また、竹細工教室は、地域の竹細工保存会の方に来ていただきました。竹細工教室のような活動をすると、学校とは違う面を見せてくれる子どもたちもいます。サポーターの方たちも、違う視点で子どもたちを見ることができるというよさがあります。
(川添指導主事)
押方さんは、年度初めや年度末に、サポーターの方からどんな活動ができるか意見を聞いて計画しています。サポーターの皆さんのことを大事にしているのを感じます。
(押方主査)
年に2回運営委員会もしています。教育長、次長、指導主事、サポーターの代表、北部教育事務所にも来ていただいて構成しています。
子どもの違う面を見ることができたという話ですが、それを学校の先生に伝える場はないのでしょうか。
(川添指導主事)
時間があれば学校の先生たちが子供教室の様子を見に行く、子供教室で気になることがあれば学校に情報を伝えるというように、放課後子供教室と学校を切り離さないようにしています。
(押方主査)
どの学校も先生方がとても協力的で、連絡体制・協力体制は十分できていると思います。
大島教頭先生にお聞きします。学校が地域と連携・協働する上で、工夫している点はありますか。
(大島教頭)
ネットワーク会の総会を年3回行っており、PDCAサイクルを回しています。総会には職員も参加しています。行事の際にはそれぞれの担当が打合せをしますが、私も一緒に入るようにしています。地域の方にとっては毎年のことになっていますが、職員が入れ替わったときには引継ぎをしっかりとしておく必要を感じています。
「こんな子どもたちを育てよう」「こんな活動をしよう」といった話をする場はありますか。
(大島教頭)
ネットワーク会の他、PTA総会、ミニバレー大会等もありますし、懇親会の場でも子どもたちのことが話題になります。地域の方は「是非、子どもたちを褒めて伸ばしてほしい」とおっしゃいます。教育懇話会のときには、あいさつについて話題になりました。地域の方々からは、「声が小さくてもあいさつをしてくれればいい」というご意見でしたが、学校としては「学校では大きな声であいさつをしていても、地域ではできていない」と捉え、バスの運転手さんへのあいさつも含めて指導をしたところです。
ネットワーク会や教育懇話会といった話合う場があることのメリットはどんなところでしょうか。
(大島教頭)
子どもたちの地域での様子が分かるし、学校での子どもたちの様子も伝えることができるので、子どもたちへの指導に活かすことができます。双方にメリットがある場になっていると思います。また、伝統芸能継承やゆず学習などでは、すべて地域の方がしてくださるので、働き方改革につながっていることも感じます。すべてを地域の方におんぶに抱っこではいけないのですが、かなり助けられています。
働き方改革につながる点のほか、地域と連携・協働することのよさにはどんなことがありますか。
(大島教頭)
一番は、子どもたちのふるさとを愛する心が育っているところでしょうか。なかなか地元のことを知る機会がないということも聞きますが、知らないと好きにはなりません。今年、本校は宮崎県猟友会から愛鳥活動の表彰を受けました。そのときの講師として本校卒業生の大学生に講話をしてもらいましたが、その後、鳥の鳴き声を聞き、「あっ、あの鳥だ」と指をさす子どもたちを見ると、ふるさとを愛する心が育っているのを感じます。他の活動でも言えることですが、とてもよい機会をいただいています。